振り返ってみても誰もいない。

本当にたまたまパトカーの音がしたのかな。

だけど今はそんなのより、

「颯っ…」

横たわっている颯に駆け寄る。

きれいな顔は傷だらけで、唇は切れて口の端からは血が滲んでいる。

「大丈夫!?足とか、手とかは?」

もし、バスケができなくなっちゃったらどうしよう…

推薦ももらってるのに、留学だって…

あたしのせいで、あたしのせいだ…

「…っ…平気。お前…は…?」

口を動かすと傷が痛むのか苦しそうに言う颯。

「…なにも…されてない?…」

「あたしはなにもされてないよ!大丈夫だよ!」

なんでこんなに優しいんだろう。

嫌いになんて、絶対になれないよ。

あたし、やっぱり颯が好きだよ。

苦しそうに息をする颯に、抱きついた。

久しぶりに感じる颯の体温。

暖かくて、安心する。

たった数ヶ月離れていただけなのにこんなにも懐かしく感じる。

「実結…」

颯の少しかすれた声があたしの名前を呼んだ。

ただ名前を呼ばれただけなのに、こんなにも嬉しくて、涙が出てくるのはなんで?

颯の腕があたしの背中にまわる。

好き…好き…

大好きだよ…

どうしよう…言いたいのに、言えない。

口を開けば溢れだしちゃいそうなほど、気持ちが溢れてる。

伝えたいよ。

聞いてほしい。