そのときだった。

「颯!」

一瞬だけだった。

だけど確かに聞こえた、あいつの声。

その声のおかげなのか自分でもよくわからないが足が軽くなった気がした。

こんなことで単純すぎる自分に笑える。

「颯ー!抜かせるぞー!」

「いっけーーーー!!」

一気に全速力で走る。

息が切れてきた、いくら鍛えていても全速力はキツい。

そして前にいるのは陸上部のエース。

だけど、

あと少し、あと少しで抜ける。






「颯!すげえよ!追い上げかっこよかったぜ!」

「お前のおかけでDブロック、逆転優勝だぜ!」

「あいつ陸上部のエースなのにすげえな!やっぱりお前はかっこいいよ。」

テントに戻ると人にかこまれた。

だけど、俺が探すのは隣のテントのあいつの姿。

気のせいだったのか?

ついに空耳まで聞こえるようになるなんてそうとう重症だな。

「颯君!すごいよ!かっこよかった!」

西田の声も届かないくらい、頭のなかはまた実結のことを考えていた。

体育会の間何回あいつのことを考えただろう。

いつになったら考えなくなるのか。

いい加減自分にイライラしすぎておかしくなりそうだ。