「次借り物競争だってよ!」

そんな誰かの声に反応してしまう。

なぜなら借り物競走は実結が出るって山下から聞いたから。

知らなければよかったのに。

やっぱり知ってしまったらみてしまう。

ちょっとくらい、見るくらいは許してくれるよな。

どこまでも未練たらしい俺は弱い。

視線はスタートに位置についてハチマキを縛っている実結へ。

真剣な顔つき。

「位置についてー、よーい!」

パンっとピストルが鳴ると一斉に駆け出した。


「がんばれー!」

「いいぞー!いけ!」

回りのテントからも声援が飛ぶ。

足の遅い実結は最後から二番目。

紙を拾ってなにやら呆然としている。

どうしたんだ?

何が書いてあったんだろう…

そして覚悟を決めたようにD組のテントに向かってきた。

「はっ、疾風君!お願いします!」

「えっ!俺?」

俺の隣で応援していた疾風。

実結は俺の方を見ない。

そりゃあそうだよな。

完璧に西田となんかあったと思ってんだろうな。

だけどもう誤解を解いても意味ない。

「何?お題は。」

「えっと…あとで言う!とりあえず一緒に走ってください!」

手を顔の前であわせて疾風を上目遣い気味に見つめる実結。

最低だな、疾風にまで嫉妬してる。

「わかった。でも走るからには勝つよ。ほら!」

疾風は一瞬俺を見て、そのあと実結に向き直り、手をつかんで走り出した。

さすがは野球部のキャプテン、足が早く、ビリだったのに二位に追い上げてゴールした。