「行ってくる。」

「実結ちゃんによろしくね!」

外に出ると、さっきよりは少しだけ薄暗くなっていた。

花火の練習打ちの音がする。

俺は隣の502号室の前で立ち止まった。

少しチャイムを押す指が震えている。

「あっ、颯!」

バタバタと足音がして出てきたのは真結ちゃん。

「今実結、おしゃれしてるからちょっと待っててね。」

真結ちゃんはそう言うと部屋の奥に戻っていった。

五分ほどして実結が出てきた。

「颯!お待たせ!」

…っ…やばい。

めちゃくちゃかわいい。

紺色に赤い花模様の浴衣は実結の白い肌を余計に際立たせていて。

去年は普段着だったから。

浴衣姿なんて何年ぶりに見ただろう。

緩くまとめた髪も、そこから見える細い首筋も、少し化粧をした顔も、すべてが俺を翻弄する。

「行こっか。もうすぐ始まるよ。」

「ああ…」

あまりにかわいくて、ボーッとしてしまった。

「颯?大丈夫?」

それに気づいた実結が俺を上目使いに見つめる。

「…うん。」

俺はそう答えるのがやっと。

「…似合ってるかな?ちょっと大人っぽいがらなんだけど真結ちゃんがこれがいいっていってね…」

軽く袂を持ち、恥ずかしそうにはにかむ実結。

「…うん、似合ってる。」

自然と口から出る。

それくらいに今日の実結は俺を魅了している。