マネキン少年


せめてなにかしたいってはじめた一人暮らしだったけど、自由につかえるお金が減っただけな気がする。
実家にいた方がよかったかなとも思うけど、せめてもの抵抗だった。


「そちらかわいいですよねー。今年流行りのかたちなんですよ。今私も着てるんですけど、すっごく綺麗なシルエットになるんですよ。」

「あ、はい。雑誌で見てほしいなーと思ってたんですけど、ちょっと今日は手持ちがあまりなくて。」


マネキンが着こなしているコートを、マネキンと同じくらい、いやマネキン以上に着こなしているくらいかわいい店員さんが声をかけてくれる。
バイト帰りでボロボロの私と違って、仕事中でもばっちりメイクにふわふわの髪の毛が羨ましい。同じ仕事のはずなのにどうしてこうも違うんだろう。


「そうなんですねー。あっ、こちらのブラウスも新作でかわいいですよ。」

「そう、ですねー。」


あ、やばい。このままじゃノセられちゃうなんて思ったときにはもう遅い。
あれよあれよというままに、私はショッパーをぶらさげて、帰りの電車に乗っていた。