「何で知ってるの? って顔だね」


お兄さんの言葉に食い気味に頷いたせいで、あたしはまた笑われてしまった。


「彼ね……、
寝オチする前に、キミの事べた褒めしてたから」


────べた褒め。


誰が。


まさか。


「え、えー、えぇー!」


驚きやら照れやら何やらで思わず挙動不審になる。


「本当だよ?
可愛いって100回くらい言ってたし」


「────それは嘘ですよね」


「ホントホント。まぁ100回ってのは盛ったけど。
ノロケなのか何なのか知らないけど、すげー面倒くさかったもん」


あたしを大いに混乱させたそのお兄さんは、会計を済ませると謎の笑みを残して帰って行った。


広い背中で上司を背負って、「ごちそうさまです」と呟いて。


「あの人、きっとあたしをからかっただけだな」


独り言は、店のざわめきに溶けて消えた。


混みのピークを過ぎて落ち着いてきたとはいえ、まだ閉店の片づけをするには早い、そんな時間だった。


何にせよ、あの小さな酔っぱらいを放置しておく訳にはいかない。


あたしはカウンター席に歩を進めた。


相変わらず服部は、突っ伏した体勢のまま小さく寝息を立てていた。


「おーい服部、起きて」


彼の肩をポンポンと軽く叩く。

彼は起きない。


「起きろってば!」


結構思い切り揺さぶっても、服部の意識は戻って来なかった。