「え、っと……」


な、何だこの状況は。


完全に油断していたあたしの心臓が、ドックンドックンと派手に鳴る。


あたしは服部に抱きしめられていた。


「オレ……言ったこと、なかったっけ。
お前のこと……か、可愛い……って」


切なくかすれた服部の声に、あたしは耳を疑った。


────かわいい!?

今服部、可愛いって言った?

あ、あたしの事を可愛いって言いました?


それは、普段あたしに対して暴言ばかりをよこす服部にはあまりにも不似合いな言葉だった。


服部の事、結は『甘いこと言うよね』なんて言ったけれど……。


それは何というか、服部はいつも若干遠回しな言い方で、こんな直接的に言われるのは────そう、告られた時だけだ。


「……口にしねぇだけでちゃんと思ってる、から。
だからもう……ああいうヤツらに着いて行くな」


顔が見えない分、服部の言葉は余計にあたしの心に直接響いてきて。


何だか涙が出そうになった。


────ごめんね、服部。


あたしは少しためらいつつ、服部の背中に腕を回した。


正直、日中汗をかきまくった身体で抱き合うなんて気が進まないけれど……。


日が暮れて外は涼しくなってきたところだったし、このゴンドラの中は冷房が効きすぎていて寒いくらい。


なので、服部の温かい身体は心地よく感じた。


「服部……だいすき」


自然とこぼれた台詞に自分で恥ずかしくなった。


返事の代わりに、さらにギュッと強く抱き寄せられて────しばらくそのままで、お互いの速すぎる心臓の音を聞いていた。