小さなキミと






声を漏らしたのが失敗だった。




何気なく覗いた自分の筆箱の中に、どう見ても筆記用具ではない代物を見つけた。


他人が見たら、『筆箱にコレを入れてるなんて変わってるね』とでも言われるかもしれないが、要するにそれだけで終わる程度のことだった。


それを変に隠そうとするから、こんなヤヤコシイ展開になってしまったのだ。


コレが自分のものではなく八神有の私物だということは、あたしが言わない限り、相手には知る術(すべ)がないというのに。


形は真四角、大きさは少々立派な消しゴムサイズ。


青いキャップに透明なケース、そして印字されたZの文字が強烈なインパクトを放つそれは、現代人の中には必須の人も多い爽快アイテムで……


平たく言えば、ただの目薬だった。




目の前に差し出された筆箱に、件(くだん)の目薬が入っている。


「ごめん、ちょっとやりすぎた」


ぶっきらぼうな口調だったが、服部の謝罪はあたしが冷静になるには充分すぎた。


負けず嫌いが裏目に出た結果がこれだ。


アホかあたしは。何やってんだ。


普通に考えればそれはただの目薬で、服部にとってはただの日用品だ。


なのに考えなしで好きな男を追い回したりして、そのうえ先に謝らせて。


本当情けない、みっともない、恥ずかしい。


そもそもあたしが隠そうとしたのが悪いし、その後のアレは思い返せば暴言だった。


恐る恐る、あたしは筆箱を受け取った。


申し訳なさから、服部を直視できなかった。


「……あたしの方こそごめん」


小さな声で、そう呟く。


他に誰もいなくなった教室に、あたしの声を邪魔するものは何もなかった。