小さなキミと

「さっきの“あ”の理由を教えてくれたら返してやるよ。
人の頑張りをコケにした罰だな」


「この野郎……」


歯がみした剛が立ち上がる気配を見せたので、オレは一足先に腰を浮かせた。



これは小学生の追いかけっこだな。


アレだ、好きな子にチョッカイかけて追いかけられる男子。


頭のどこかに傍観者的な自分がいて、そんな感想を述べたのが聞こえた。


机をイスを蹴倒す勢いで教室中を駆け回りながら、一体何をしているんだと自分に呆れる。


わずかに残っていた追試生たちは慌てて教室を出て行った。



「何だよ、そんなに、言いたくねーの?」


「本当に、大したことじゃない、から、言うまでもないだけっ」


この無駄な追走のせいで、お互いに息が上がってしまっていた。


台詞も切れ切れだ。


冷房のおかげで汗は最小限だけど、それでも額に滲む程度にはかいたのだ。


いかに本気の追いかけっこだったかが分かる。


どうやら無駄に意地っ張りなところが、オレとコイツの共通点らしい。


オレだって別にどうしても知りたいわけじゃないし、剛だって墓まで持っていきたい程ではないだろう。


こうなったら、どっちかが折れるしかない。


オレはため息を吐いて、ようやく意地を手放した。


つい数分前までの緊張感を、今さらながらに思い出す。


あーあ、台無しだ、何もかも。


何でこうなっちゃうのかねー、オレたちって。



「……ほら」


ふてぶてしさは隠せないけど、筆箱を剛の前へ突き出すことなら何とか出来た。