「もー、ほんっとゴメンって。どうしたら許してくれる?
あ……もしかしてもう取り返しがつかない、とか?」


あたしの問いに、服部は答えない。


「えーっと、今後の生活に支障が出るレベル……かなぁ、それは。
うーんと、多分悪気はなかったと思うんだけど、どうなのかなぁ」


あたしがなにを言っても、服部は相変わらずだんまりを決め込んでいて。


そうなのか違うのかも分からない。


何をしでかしたのか、探りを入れることもできそうになかった。


「あぁーっ、ゴメンもうギブ。正直言うとあたし覚えてないんだわ、自分が何やらかしたのか。
本気で謝るから教えてくださいっ」


バサッと髪が地面に付きそうな勢いで、あたしは服部に向かって思い切り頭を下げた。


もうダメだ。これ以上下手な言い訳すると、服部にマジで嫌われる。


「……覚えてないって、嘘だろ」


少しして、ひどく動揺した声が降ってきた。


顔を上げると、服部は驚いた様子でこっちを見ていて。


例えるなら、鳩が豆鉄砲を食(くら)ったような……。


見つめ合うこと数秒。


ふいに服部がフッと笑みを漏らした。


「なんか、ちょっとホッとした。
やっぱりお前アホだな。すっげーアホ」


そう言って、服部はククッと小さく笑った。


「あ、あほ? なにそれ意味分かんない。
てか早く教えてよ。そのせいで、ずーっとモヤモヤしてるんだってば」


混乱するあたしに対して、なぜか満足げな服部は、ニッといたずらっ子のような笑みを浮かべていた。


「バーカ、一生モヤモヤしてろ」


八重歯をちらつかせながら、服部が笑って言った。


もう怒ってない、みたいだけど。


「なんか、ムカつく……」


言葉とは裏腹に、口元が勝手にほころぶあたしだった。