「本当に騙してない?」
「あぁ」
由紀兄は真剣な顔をして頷く。
「分かった。やってみる」
「よし、決まりだな」
私が頷くと由紀兄は笑顔になり、早速仕事の説明だがと話し始めた。その説明があやふやなままで「あとは行けば分かる」としか言わない由紀兄をみてこれからの不安を覚えたのは言うまでもない。
「何かあったら、いつでも電話してこいよ!」
なんて言いながら、去っていく由紀兄をじっと見つめため息を吐く。
なんか、うまく丸め込まれた気がするけど。何がともあれ、家無し・無職になるところだったのに運よく仕事がその日に見つかったのだ。
しかも、好きな仕事を続けられるなんて願ったり叶ったりだ。
覚悟を決めて家までの帰路につく。
この時の私は、この出会いがとてもかけがえのないものになるなんて思いもしていなかった。



