私は今、最大のピンチを迎えている。
なぜなら…
「ちょっとそこの可愛いおねぇさん?」
『な、何か用ですか?』
そう目の前に、
「そんな怖がるなって〜。まあ暇してるっぽいし俺と遊ぼ?」
私の大大大嫌いな男という生き物がいるからだ。
よりにもよってこんな日に。
男は制服を着ているから多分、高校生くらいであろう。
髪は金髪で耳には派手派手しいピアスが付けられている。
その上カッターシャツはボタンがほとんど外されていて、胸元には大きな銀色の十字架ネックレスがつけられている。
誰を誘惑してるんだか…
そう思いつつ逃げようとすると、がっしりと腕を掴まれてしまった。
『やっ……痛いっ…』
ちょっと女の子らしい声を出してみた。
我ながらとても上出来だ。
そんなことを思っているうちに、ギリギリと腕に男の手がくい込む。
いや全然痛くないんだけどね。
ちょっと痛そうに顔をしかめてみると、相手の男はニヤリと口元に不敵な笑を浮かべる。
「ほら早く行こうぜ?」
早くこの場を離れたいとばかりに男はずいずい引っ張る。
しかし私を引っ張ろうにも私が微動だにしないため、男はかなり困惑と言わんばかりの表情をしている。
まあ男でも私には敵わないだろう。はっはっはー。
「てめえ俺が優しくしてるからって調子に乗ってんと…
と、そう男がキレ始めた矢先、
「ちょっと」
金髪のチャラッちい声とは違った、穏やかな優しい声が私の背後から聞こえた。
ちっ、また男かよ……
その声の主を見る為に、後ろを振り返ると、背の高い、茶髪の男が立っていた。
「あ?んだよ。俺は今からこの子と…」
そう言うと、私の腕を掴む男の腕を茶髪が掴む。
「悪いけどそいつ俺の彼女だから離してもらえる?」
『!?』
私は急な茶髪男の発言に少々びっくりしたが、ここは合わせるべきだと思い、平静を装った。
もう…めんどくさいなぁ。
「彼氏だぁ?んなことは関係ねぇんだよ!!」
そういうと金髪の男は私の手を離し、茶髪の胸ぐらを掴む。
「生意気なガキが調子に…
茶髪に殴りかかろうとする金髪を見ていると、とっさに、
『…てめぇこそ調子に乗んなよ!!!!!!!』
私はそうして金髪の男の腹に思いっきり飛び蹴りを放った。
「あがっ!?!!」
男は変な声を出しながら、少し先にぶっ飛んだ。
やばい、足が出てしまった。
茶髪も固まってるし…
突然の出来事に長い沈黙が訪れる。
周りにいたのはとりあえず茶髪の男だけで、辺りには誰もいないから、見られたのはきっとこの茶髪だけであろう。
人には迷惑かけたくなかったから仕方なく蹴ったけど!!でもやっぱやばいよねこの状況。
『あ…や…その。今の見なかったことに…
「いや無理だろ!!」
茶髪は驚きを隠せないとばかりに私と倒れた男を交互に見る。
「というか今のって…ほんとにあんたがやったんだよな…?」
『やってない』
そうだ、この男が勝手に幻覚を見たってことにしておこう。
「いや、一部始終見たんだけど俺!!まあそれは後で、まずこの男をどーするか…」
そう言うと、金髪の男の手がピクリと動く。
『生きてるから大丈夫、ほっておいても』
そう言って私はくるりと踵を返して歩き出す。
「ちょ、ちょっと!!」
歩き出すと茶髪が追いかけてくる。
それに逃げるように私は走り出す。
「ええ!?逃げるの!?」
『ついてこないでよ!』
そう言って私は全力で逃げる。
足には自信があるから追いつかれるはずがない。