「本当です、綾子さん…」

「…じゃあ、責任を取りなさいよ…」

「本当に、すみません…」

鳴海が申し訳なさそうに頭を下げると、綾子は一瞬泣きそうな顔になり…それから、ゆっくり鳴海に背を向けると笑い出した。

「…フッフッフッ…ひっかかったわね、鳴海 静時」

「え…?」

店内にいる全員が、突然笑い出した綾子を驚きの目で見つめた。

「ホッホッホッ…本気で結婚を迫りに来たと思ったわけ?!ばっかじゃない、冗談に決まってるでしょう?!」

と高らかに言って店を出て行くと、一人のタキシード姿の男性を連れて戻って来た。

「私が今から式を挙げるのは、この人よ!」

綾子が今にも逃げ出しそうな男性の腕を、がっちりとつかむと言った。

男性は空いている手で顔をおおうと、一生懸命鳴海から顔を反らしている…

「…そうでしたか…おめでとうございます。どうぞ、お幸せに…」

鳴海は男性をチラリと見て、すぐに綾子に視線を戻すと、微笑みながら言った。

「あ、ありがとう…もちろん幸せになってやるわよ!」

綾子は目に涙を浮かべて鳴海の事を見ると、千歳に向かって頭を下げた。