血の記憶







親父はそれ以上何も言わずに俺たちに背を向けて歩いていった。



「しょ…ま……」



微かに聞こえた声。


それでも認めたくなくて


ゆっくりゆっくり視線を下に向ける。


いつもより血の気が引いた顔。


目は虚ろで口元には血を吐いたのか


赤黒い血がついていた。



「菜央……?」



掠れて震えている俺の声。


それでも菜央の耳には届いたのか安心したような顔をする。



「お願…い、き、てくれ……る?」


「な、なんだよ」



耳を塞ぎたい。


聞きたくない聞きたくない。


なんでそんな最後の言葉みたいなこと言うんだよ。


周りの声がうるさい。



『あの子、もう……』


『早く救急車来ないとやばいぞ』



そんなの知りたくないんだよ。


なんの情報もいれないでくれ


俺と菜央の邪魔をしないでくれよ


頼むから。




時間がないことぐらい一番俺たちが分かってる。