6年前、中学1年の春…私は恋をした。


相手は同じクラスで、隣の席の鳥内旭(とりうちあさひ)君。

入学してから数週間、仲良く話しているうちに旭君に特別な感情を抱くようになった。

その感情が恋だとわかったのは旭君の何気ない一言からだった。

「柚子(ゆず)は好きな人とかいないの?」ドキッ旭君がそう言った瞬間、胸が大きく高鳴った。胸の高鳴りの原因は旭君だと私は悟った。

“旭君にドキドキ=旭君が好き”私はそう理解した。

-旭君が好き。

恋のほとぼりに溺れるのも束の間、私は初夏に転校する事になった。

理由は、父親の転勤。

名古屋の支店の部長になった父親のため、慣れ親しんだ埼玉を離れ、一家で名古屋に移り
住む事になった。

「ねぇっパパっどうしてよ!転校なんてしたくないよ…!」

「お仕事なんだから、仕方ないでしょ?」

「だったら私だけでも埼玉に残る!今の学校が良いの!」

旭君と離れたくない!その一心で、泣きながら両親に訴えた。

「柚子!いつまで駄々をこねるんだ!柚子1人だけで埼玉に残ったって所詮はまだ子供。何もできないじゃないか。それに柚子はもう中学生になったんだ。いい加減大人になりなさい!いいか?柚子も一緒に名古屋に行く事!」

私は生まれて初めて両親を心から憎んだ。

「もういい…。」私はこの時程大人を恨んだ事はないだろう。

仕方なく私は引っ越しの準備に手をつける事にした。

時が過ぎるのは早いもので、ついこの間まで花を咲かせ春を色どっていた桜は花を散ら
せ、緑の葉を茂らせ、すっかり夏模様になっていた。

季節はもうすぐ夏。今は初夏。

そして明日…私はこの生まれ育った埼玉を離れる。

旭君にさよならは言わない。

言っちゃうと、名古屋に行く決心が濁っちゃうから…。

だけど引っ越しする事だけは言おう。

「旭君、私名古屋に引っ越す事になったんだ。だからもう会えなくなっちゃうけどこれか
らも友達でいてね!バイバイ!」そう言って教室から出た。

返事は何も聞かない。バイバイ、旭君…。

私は結局、旭君に気持ちを伝える事なく名古屋へ引っ越した。


いつか、会えるといいね・・・。