この気持ちに名前をつけるなら




人力車は思った以上に高くて眺めも最高で、車夫さんもユーモアたっぷりに小樽の街を案内してくれた。

途中、クラスメイトが私たちを見つけて手を振ってくれた。

夕暮れ時。

運河に反射する真っ赤な夕日が眩しかった。



「感動だね」

「うん、最高っ」

「光太と一緒に見たかったね」

「そうだね」



さおりはにっこりと笑った。



「一子、来て良かったでしょ?」

「うん」



坂下も、そう思ってくれたかな。

心無しか、楽しんでるように見えるけど。


振り返って坂下を見ると、坂下も夕日を見ていた。

テンションが高いわけでもなく、車夫さんと話をするわけでもなく、静かに。



その横顔が切なく見えたのは、夕日のせいだけではない気がする。

何も話さない坂下。

毎日外食をすることも、さっきみたいに自然に大人っぽい振るまいができることも、普通の高校生としてはやっぱり違和感を感じずにはいられない。



越えられない一線。



無理矢理跨ごうとは思わない。

だけど、どこか放っておけない気がして、坂下の横顔から目を離せずにいた。