一瞬言葉に詰まると、坂下は笑って手を振る。
「いや、変な意味でとらなくていいよ。親は両方とも健在だし、姉貴もいるし。ただうちの家族、修学旅行のお土産で喜ぶような家じゃないだけ」
「……そうなんだ」
「次会うのもいつになるかわからないし」
坂下は本当になんでもないように言った。
同情するなんて、失礼なことなんだろう。
坂下にとってはそれが普通で当たり前なんだ。
私は自分で買ったお土産に視線を落とす。
皆喜んでくれるかな。
坂下は料理もできないのにどうして一人で暮らしているんだろう。
親は様子を見に来たりしないんだろうか。
そもそも、どうしてあんな中途半端な時期に転校してきたんだろう。
クラスに溶け込むわけでもなく、いつも一人でいることを好む。
『俺、女子苦手なんだ』
『野上も、俺のこと絶対男だって思わないでね』
坂下の表情は見えなかったけれど、越えられない一線を、確かに感じた。
どこか昔の自分に重なった。
理不尽で納得できなくても、自分には選択肢がなかったあのときの自分に。