「あのね、私、本当は修学旅行行こうか迷ってたんだ」



隣に並んで話し始めると、坂下がこっちを見下ろす。

坂下とは反対側に、光太も並ぶ。



「うち貧乏だから、お金とかやっぱ気になっちゃって。
『メロウ』も休まなきゃいけなくなるし、それなら行かなくてもいいかなーって。
でも、さおりと光太もそうだけど、お母さんとか弟とかも、皆楽しんで来てって言ってくれたんだ」



ゆっくり歩きながら、坂下は黙って聞いてくれた。



「来なくても後悔はしなかったと思うけど、でも、来て良かったってすごく思う。
だから、坂下もせっかく一緒に来たから、楽しんでたら嬉しいなって」



せっかく来たのだから。

修学旅行は勿論勉強の一貫だけど、それでも、高校生活最大のイベントなのだ。

一生に一度しかないイベント。



「あ、でもね、もし坂下が、私たちと回るよりもひとりで回った方が楽しめるなら言ってね!私たち三人仲良いところに入ったし、気を遣って楽しめないとかなら先生に内緒で別行動でも大丈夫だと思うんだ」



本人にとって何が一番楽しめることなのかはそれぞれ違うと思ってそう言うと、坂下に笑われた。