「いいよ。私、ここにいるから。」


私は空を見上げて言う。


「あなたは選択しなきゃいけない運命なの。」


「選択?」


サラの表情からは、笑みが消えていた。


真面目な顔をして、真剣に話を進めていく。


「今日から一年間、アイは人間の世界に帰ることはできない。でも一年後、帰れるチャンスがやってくる。その一年後の今日をのがしたら……永遠にこの世界にいなきゃいけなくなる。」


「それって、幸せなことなんじゃないの?」


「……人間にとって、生まれた場所が幸せな場所なのよ。でもその場所を捨ててこの場所で生きていくのか、ちゃんともといた世界に戻るのか。一年間で決めなくちゃいけない。」


「この世界を選択したら、どうなるの?」


「……あなたの命は止まる。」


 命が止まる?


「どういうこと?」


「この世界に来る人間は、本体じゃないの。」


「本体じゃ……ない……?」


 いったいどういう意味?


「魂よ。」


 ……たま……しい……?


「アイの本当の体は、人間の世界にある。今ここにいるアイは、魂のアイなの。」


「……。」


 なにそれ……。


意味が分からなくて、私は固まってしまった。


「だから一年が過ぎてしまうと、本体のアイは死んでしまうか植物状態のままで魂だけがここで生かされることになる。」


 ……ここは本当に、「異世界」なの?


 天国でも、私の夢の中でもないの?


 私は本当に、「異世界」に来てしまったの……?


 でも、でもそれでも……。


「……私はどうなったっていい。だって、その覚悟で飛び降りたんだもん。私はこの世界できっと幸せに暮らせる……。」


「ここにいることを前提に考えてはダメ。今日から一年間、じっくり考えて。ちゃんと自分の人生を決めるの。ここで生きることを決めてしまったら、本当に一生戻れなくなる。死ぬのと一緒よ。」


「いいの、それで。」


「アイ……。時間はあるからね。」


サラの声は悲しそうだった。


でも私は、サラの表情を伺おうとはしない。


「……。」


戻れなくていい。


戻ったら、私を待っているのは「地獄」。


そんな現実を見るなら、戻らない方がずっといい。


この場所が私の居場所となるのなら、私は永遠にここにいる。


きっと、これは神様がくれた一度きりのチャンス。


幸せに暮らせるチャンスなんだ。







こうして、私は「異世界」という時空を超えた世界に迷い込んでしまったのだ。