「ここに迷い込む人間は、大きな悩みを抱えているの。そして、死のうと思って自殺を考えた者が、悲しみと苦しみと寂しさで「別の世界へ行きたい」というとても強い思いから、この世界に迷い込んでしまうのよ。」


「じ、じゃあ、私も迷い込んだってことなの……?」


「そういうこと。だからここは、みんなが知らない世界。迷い込んだ人だけが知ってしまう世界なの。」


そんなことを言われても、やっぱり私にはまだ理解ができない。


そんなの、アニメとか漫画とか、そういうとこだけでしか存在しないような話。


「異世界」なんて、存在するわけがない。


きっと私、飛び降りて頭を打って死んじゃったんだ。


そして、これは私の夢。


きっと、ずっと見てみたかった幸せの国の夢。


「サラ。きっとこれは私の夢なんだよ。ずっと、心のどこかで憧れていた世界なんだよ……。」


「うん。ここに来た人間は、みんなそう言うわ。でも、実際は違うの。」


「……。」


私は両膝を抱えて、顔をうずめた。


 そんなこと言わないで。


 夢を見させて……。


その時だった。


自分の脚を見て気がついた。


「え!?」


思わず声をあげてしまう私。


驚かずにはいられなかった。


だってあんなに傷だらけだったのに、何もなかったかのようにキレイになっていて、傷跡すらなかったから……。


腕を見ても、指を見ても、すべてキレイに傷が消えていた。


「ど、どうして……っ?」


私が自分の身体を見渡していると、サラはにこっとしながら言った。


「ふふ。この世界は、傷ひとつつかず生きていけるの。健康的に生きることができるって、さっき言ったでしょう?この世界にいるだけで、不老不死になれるのよ。」


「わ、私もっ……死なない体になったってこと!?」


「そうよ。この世界はね、傷つけ合うことはないの。絶対に誰も傷つけない。傷つけられない。上下関係だってない。好きに生きていいの。」


「……すごい。死んじゃったら、こんなにもいい夢が見られるんだね。」


私はうつむく。


「……アイ。お願いよく聞いて。ここは天国でもあなたの夢の中でもない。信じるのは本当に難しいかもしれないけど、信じなきゃいけないの。じゃないと、ここから出られなくなるわ。」