「アイ。私、アイに笑ってほしい。」


……笑う?


「アイは、生きなきゃいけない。死ななきゃいけない人なんていない。アイは、笑った方がいい。」


笑うなんて……どれくらいしてないだろう。


心の底から笑うなんてこと…もう全然してない。


『笑った方がいい。』


でも、どうやって笑ったらいいのかわからない。


私、どうやって笑ってたっけ。


どうやって、笑えてたっけ。


笑い方なんて……忘れてしまった。


サラの腕は、私を強く包み込む。


「……わから……ない。」


溢れ出す涙をこらえることはできなかった。


私は、詰まる喉から必死に言葉を出す。


「……わからない……笑い方なんて……忘れ……ちゃったもん……。」


すると、包み込んでいた腕が離れて、サラの手が私の頬へとやられた。


「私が、取り戻してあげる。」


「……え?」


「私がアイの笑顔を、取り戻してあげる。」


サラは真剣に、目に少し涙を浮かばせながらそう言ってくれた。


そう。


私は笑い方なんて忘れてしまった。


中学に入る前までは、毎日笑顔でいた気がする。


でも、その心の底から笑えていた自分を、どこかに置いてきてしまった。


テレビを見ていたりする時も、面白いのになぜだかうまく笑えない。


あんなに大笑いしていた時があったのに、不思議と今は大笑いができない。


簡単なようで、私にとっては難しいことになっていた。


家と学校でうまくいかなくなってから、私はずっと下しか向くことができなかった。


下を向いて、あまり話さなくなって、笑うこともなくなった。


中学2年生になってもまだ変化はなくて、むしろ追い詰められる一方だった。


そうして、気づいた頃には私は完全に笑い方を忘れてしまっていた。


どのタイミングで笑っていたのかとか、そんなのもすべて吹っ飛んでいってしまった。


笑いたいのに、笑えない。


笑いたいのに、笑い方がわからない。


むなしかった。


笑うことが好きだったのに……。


いつもよく話していた、いつもよく笑っていた自分は、どこに行ってしまったの。


「私」は、どこに置いてきてしまったの。