「ポート。 ジャックっていい人ね。」

二段ベッドの上から、ベルの声が聞こえてきた。
前みたいな、ちょっと突っ張っている明るいベルに戻ってくれたらしい。

「あたし、ジャックを邪険にしていた事をさっき謝ってきたの。 そしたらジャックは、『大丈夫だよ、お母さんを亡くしてしまったんだもん。 辛いのは当然だよね』って言ってくれたのよ。」

ベルの声はとても嬉しそうだ。 表情は見えないけど、ベルの事だからニヤニヤしているに違いない。

「ジャックはいい人だよ、今まで僕らの事をあんなに考えてくれる人なんて母さんくらいだった。」

「うん、なんだかお兄ちゃんみたいね。」

ベルは、『母さん』と言う単語を聞いても叫んだりしなくなっている。 さっきのジャックとの3人の食事で相当元気になったらしい。

「…あたし、これからはもっと人を信じることにする。」

ベルの途切れそうな声が聞こえる。 泣いているのだろうか。
僕はベッドのはしごを登り、ベルの顔を見に行った。

「ベル、泣いているの?」

「泣いてるわよ…やっと……」

ベルはその後、ベッドの中で大泣きして。 つられて僕も泣いた。 はしごにしがみついていながらも。
あとからジャックが、驚いた顔をして僕らの様子を見に来た。

僕とベルをベッドやはしごからおろし、ただひたすらに僕らを慰めてくれていた。


僕の中から、沢山の思いが溢れていた。

母さんが死んだこと、ベルがおかしくなったこと、ジャックの優しさ。
悲しみから解放されたかのように、ぼくらはわんわん泣き続けた。