オオカミと少女


「ミストおばさん!?」




ナターシャは目の前に座り込む女性に見覚えがあった。




「な、ナーちゃん?ナーちゃんなの?」




ミストは動揺しているのか、走り寄ったナターシャの袖を掴む。




「どうされましたか!」




ナターシャの後からミストの顔を覗いた警備団の男の叫ぶ声を聞いて、ミストはビクッと身体を震わせた。




「オオカミが…!
わ、私は、夫が仕事場に泊まっているので、心配で家を出たんですけど…!
そしたらオオカミが!」




ミストは相当動揺しているようで、息が上がっている。




「落ち着いて、ミストおばさん。お腹の子にも良くないわ。」




ナターシャはミストの背中をさすった。




「…オオカミって、目が細くて赤くて、毛は濃い茶色?」




そのオオカミしかこの街にはいないことは良く分かっている。



だがナターシャはまだ警備団の男が言ったことを信じれないでいた。




(イーサンがオオカミ人間だなんて…)




「アオーーーーーーーン!」




ナターシャはオオカミが吠える声に顔を上げた。


ミストが恐怖のあまり男に掴まる。




「…ミストおばさんは、ここにいて?」




ナターシャは少し笑って言った。




「オオカミがイーサンなら、私を殺しはしないはず。」




「どうして、そんなことが言えるの!?
相手はオオカミ人間よ…!」




ナターシャは相変わらず笑って首を振った。




「あの人は、私の好きな人でもあるのよ。…愛してる、っていうのかもしれない…。」