イーサンの赤い細い瞳から涙が溢れた。
それは、撃たれた足と心の痛み。
(次ナターシャに会うのはもっとずっと後にしよう。)
それまでは、今まで通り我慢しよう。
そう思って走っていた細い路地を抜けて角を曲がったとき、イーサンは1人の人間とぶつかりそうになって身をよじった。
変な体制で着地したため撃たれた足が痛む。
銃弾は貫通していたが、傷口を舐めると血と金属の味がした。
「い、嫌ぁ!!!」
イーサンがぶつかりそうになったのは1人の女性だった。
その女性のお腹はパンパンに膨らみ、妊娠していることが分かる。
イーサンはその女性になぜか見覚えがった。
(ああ、レミットさんにそっくりなんだ…。ということは、ナターシャが言ってた双子の妹のミストかな?)
ミストは妊娠していて、子供ももう少しで生まれると聞いている。
「何もしないで…!」
ミストが座り込んだ時、その後ろから2人の人間が走ってくる音が聞こえた。
ミストには聞こえていないようだったが、オオカミになったこの姿ではよく聞こえる。
イーサンはミストを置いたまままた駆け出した。
捕まるわけにはいかない。
また、ナターシャに会うまでは。

