『――工藤 漣先生だ。』
「……えっ?」
編集長の口から出た名前に、私は一瞬聞き間違いかと思った。
工藤 漣…って、あの?いや…それとも同姓同名?――いやいや、この文学界では同姓同名なんて有り得ない。
しばらくの間、あまりの衝撃に固まっている私に編集長はニヤリと笑った。
「えっ、あのっ、工藤先生の担当は進藤さんですよねっ!?」
『それが、工藤先生から担当替えのオファーがあってな。こちらも人気作家の申し出は無下にできないだろう。あの木下先生も懐柔した宮野なら、工藤先生の担当が務まると思ってな。』
「っ……そんなっ」
木下先生を懐柔なんて、恐れ多い。
私はただ、木下先生のどんな些細な言い付けも、無茶な提案も、頑張って飲み込んでいただけ。
編集者として当然のことをしていただけなのに…。
『今日の10時から会議室4で工藤先生と打ち合わせが入ってるから。』
「えっ?」
『資料まとめておけよ。…あと、工藤先生の機嫌だけは損ねるなよ。』
「っ…は、はい!」
上司の命令は絶対。
どれだけ私が木下先生の担当の継続を望んでも、上司がNOと言えば叶うことはない。
編集長のデスクから離れて、自分のデスクに向かいながら、私は小さな溜め息をついた。

