一人称が、"ワタシ"から"俺"に変わっている。
そのことが示す意味を、私はあの日に痛感していた。
『俺を納得させることのできるほどの理由なら、聞いてあげても構わんが?あ?』
「えっ…、ちょ、ちょっっ」
黒い笑みを浮かべたまま、私の方へジリジリと迫ってくる先生。
そこに数分前までのオネェな先生はどこにもいない。代わりにいるのは、工藤 漣という男ただ一人。
この時、ビジネスオネェの非情さを思い知る。
『ねぇの?理由もないのに、俺を避けてたわけ?』
「ごっ、ごめんなさい…っ」
ひぃぃぃっ
怖い、怖すぎる。この地獄の笑みを目の前にして、夕方の編集長の睨みなんて低レベルと言うことを察する。
まだ編集長に檄を飛ばされて睨まれるほうがマシだと思った。
『メールも電話もしてんのに、返信もしないで無視とは…茉子のクセに生意気。』
「す、すみませんでしたぁ…っ」
だから謝ってるのにーっっ
蛇に睨まれた蛙のように、私は半泣き状態だった。