――『はい、捕まえた♪』

「っ、」


玄関前で、掴まれた腕。

私の腕を引っ張って中に入れるのって、先生のクセなのだろうか。


気まずい気持ちのまま、やってきた工藤 漣先生の家。

けれど、その気まずさは必要なかったらしい。

目の前で微笑む先生は、あの日の男らしい先生の影はなく、いつものオネェな先生だ。


「すみません。突然押しかけてしまって。」

『ううんー、全然いいのよー。』


パンプスを脱いで、廊下を歩いていく先生の後ろを歩く。

実を言うと、ホッとしていた。

10人いれば全員格好いいと形容するであろう先生に口説かれるなんて、もう二度と御免だ。

口説かれるこっちの身が持たない。


「あの…先日頼んだ原稿、上がってますか?」

『――茉子ちゃん。』


この調子なら、泊まり込みで先生のお世話ができると思っていた。


『俺から逃げるなんて、茉子のクセに生意気ね?』

「……え?」


こちらに振り返った先生のブラックな笑顔を見るその前までは。