カツカツカツッ


履き続けて2カ月弱になる仕事用のパンプスで音を響かせながら、高層マンションの廊下を早歩きでかけていく。

入社2年目の春。

大手編集者に就職した私に、初めて自分の担当様ができた。

その人は、ミステリー、SF、コメディ、エッセイ、時代劇モノ等、何を書かせてもベストセラーになる有名な作家様。

入社する前の私でも知っているような大物だった。


カツッ

「……ふーっ…」


ここ一週間毎日通い続けている部屋の玄関前で、私は気合入れの深呼吸をする。

今日は絶対に流されない!

そう思って、ドアの横にあるインターホンを押した。


ピンッポーン…ッ


部屋で私が鳴らしたインターホンの音が響くのを、外で聞く。


シーン…


中に人がいると分かっているのに、一向に開かない玄関の扉。

――またか。