隼人side


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走って10分くらい、
もうすぐ日比野さんの
マンションにつく頃。


今日は休みで
コンタクトを入れてなく
メガネをかけてる訳だけど、
すごくズレる。


...それにしても
何でうろついてるんだ?

日比野さん大丈夫かな...



「...!」


目の先には
背の高い男子高校生らしき人が
少し離れたところに立ち尽くしてる。

昨日見た人と一緒。


ズレを直しながら
表情を伺った。

ーん?困ってる?


走るのをやめて、
歩いていると向こうも
気が付いたようだった。


さて、なんて話しかけるかな...




「あの!」


「え」


まさか話しかけてくるなんて。


印象といえば、
大人しそうで
優しそうな感じがする。

聞いた話の彼だとは思えない。


「昨日、あい、いや日比野と
一緒にいました...よね?
彼氏さんですか?」


「...あ、はい。
ごめん、今日はメガネだけど」


「俺、有馬 千晶 です。
あの、実は日比野にこれを渡して
欲しいんですけど...」


差し出されたのは
小さく折られた白の便箋。


「?」


「あ!中身確認してもらって
結構です!むしろして下さい!」


「わ、わかった。あと、
そんなに改まらなくても大丈夫。」


言われたとおり
中身を確認する。

読み終わって顔を上げると、


「大丈夫、ですか?」


遠慮がちに聞いてきた。


「うん、いいと思う。
ちゃんと渡しときます。」


「よかった~
俺部屋の番号わからなくて
ポストに入れれなくて
困ってたんです」


ふぅと息を吐く。


「あ、こんなこと聞いていいのか
わからないけど...
日比野元気にしてますか?」


「あはは、だから、敬語はいいよ。
うん。元気にしてる。」


「...じゃあお言葉に甘えて
敬語やめてみま、あ、やめる。」


何か思ってた感じと違う。

もっと、こう、
イケイケな人かなって
思ってたな。


「あの、俺の事聞いたりしたかな?」


「あぁ…、ほんの少しね。」


「そっか...俺 本当に自分勝手で
負担かけて、あげくに怖がらせて
しまって...かなり悪い事したんだ。」


その表情ににじみ出ているのは
反省と後悔の色。

…そして後ひとつの何か。


失礼かもしれないけど、
気になった疑問をぶつけてみる。


「あのさ、気分悪くしたら
申し訳ない。もしかしてだけど
その時、同時期に何かあった?」


「え...」


だって、考えもつかない。

この人が…。


「...」


「...確かにあったけど、
これ誰にも言ってないのに...。
なんで分かった?」

びっくりしたような顔で
尋ねてくる。


「ん~、何となくかな。」


「ははっ、すごいな。
じゃあこの際だから言おうかな...。
実は付き合い始めたとき
両親がいきなり離婚してね。
母親の方についてたんだけど
ショックからか寝込んだりして...
妹も小さくていろいろ
結構長い間大変だったんだ。」


「...そんなことが...」


「うん、それが影響したのも
あると思うけど、
何か言い訳がましくてさ...。
でも今は落ち着いてるし、
兄さんも帰ってきてて大丈夫。
日比野には本当に
申し訳なかったな…。
あ、この話はしないでいいから!」



何て強いんだろう。

相当疲れてただろうに。



「うん。…日比野さんは
分かってくれると思うよ。
手紙だけでも十分。」


「だよな。」


そう爽やかに微笑んだ。



あ、そうだ。


「今は学校とかどう?」


「あ、俺サッカーしてて
昨日終わった
夏合宿から帰ってきた所なんだ。
あと…」


「?」


「気が変わるのが早いって
思うかもしれないけど
…気になる人が、いる。」


へへへと少し照れながら言った。


「へぇ~、どんな人なの?」


「えっと、元気で明るくて。
マネージャー。
俺がこのことで
うじうじしてた時に
相談に乗ってくれて…
手紙を渡すのを
背中押してくれたんだ。」


「そっかそっか。
いい人なんだね。」



「うん。俺も頑張るから、

日比野の事
よろしくお願いします。」


真剣さが伝わってくる。

俺も微笑んで答えた。


「はい。

そっちも。応援してる。」




「じゃあ、そろそろ帰るよ。
あ、後、返事はいらないって
言っておいてくれるかな。
そう言いそうだから。」


「了解。
今日はありがとう。
話もできて良かったよ。」


「いや、こちらこそありがとう!
すごくいい人で…
助かりました。」



じゃ、と手を振って
近くに止めてあった
自転車で帰っていった。



ーさ、早く行って
渡さないとな。


心のどこかで生まれた
複雑な思いが
積まれていくのを感じながら
足早に彼女の元へと向かった。



まぁ、そのあとそんな気持ちは
すぐに吹き飛んでしまったけれど。




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