愛side
ピピピピ、ピピピピ
「ん~...」
枕物にある
スマートフォンの
アラームを手探りで止める。
重いまぶたを何とか開いて
画面を見ると、朝 8:35。
「ふぁ~...」
私はあくびをしながら、
ゆっくりと起き上がった。
実は朝は弱いんだよね...。
しばらくそのままでいると
手の中のスマートフォンが
みじかく振動する。
ロック画面を解除して、
上のバーを引き降ろすと、
『新しいフィルターが
追加されました』
カメラアプリの通知だった。
その隣の吹き出しマークの
アイコンには 2 という数字。
タップすると同時に
メッセージアプリが起動される。
『昨日の水族館がニュースで流れてたよ
ーAM07:19』
『あ、おはよう ーAM07:20』
「ふふっ、早起きだなぁ...」
手早く返信して
ベッドから降りた。
冷房が効き過ぎてるのか
少し肌寒い。
カーテンを開けると
真夏の強い日差しが差し込んでくる。
ー今日は掃除をして、
お菓子でも作ろうかな。
そのまま
リビングへ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
午後5時。
少し作りすぎてしまった、
マドレーヌを
3つに袋分け中。
ーこれが南くんで、
これが江梨子さん、
あと太一さん。
時間的には、
少し余裕があるから
ご飯作っちゃおうかなと思った時、
テーブルの上で携帯が鳴った。
着信: 南 隼人
「あっ、もしもし?」
『もしもし、日比野さん?』
「うん、どうかした?」
話しながらベランダに出ると
心地よい風が吹く。
『...』
「...あれ?」
『あ、ごめんごめん。
何してるかなって。』
うわぁ、こういう話で
電話してもらえるなんて...
何だか贅沢、うれしい...
「さっきまでお菓子作ってたんだ~!
マドレーヌ食べれる?」
『食べれるよ』
「よかった!
後で持っていくね」
『ありがとう、楽しみにしとく。
でも、大丈夫?』
たぶん、昨日のことだと思う。
「え?あ、大丈夫だよ!」
『本当に?じゃあ迎えに行こうか』
「大丈夫大丈夫!1人でいけ、...」
無意識に下の方を見た時に
ちらちらとこのマンションを
見ながら歩いてる人が目に入った。
ー千晶...
何でここにいるの...?
いや、でもお散歩かもしれないし。
でも、小学校から一緒だから
家は知ってるだろうし...
それよりタイミングが...
どうしよう...
『日比野さん?』
「...えっ、と…」
そのうちいなくなるだろうけど、
ちょっと怖い…
出れない…
「…ごめんね、今日ちょっと
いけない、かも…」
『どうした?』
「…大丈夫だよ!」
『言ってみて。』
ーうっ…
やっぱり、お見通しなんだね…
「…いまベランダにいるんだけど、
…外に、千晶が...」
『今から行く。
オートロックだよね
何号室?』
「…B163」
『わかった。部屋の中で待ってて』
プツっと電話が切れた。
最後の方ではバタンと
ドアが締まったような音が聞こえたから
多分もう家を出ているのかもしれない。
ベランダからリビングに入って
ソファーに寝転んだ。
会ちゃったらどうしよう...
南くんの家からここまで、
どれくらいかかるのかも
分からないし。
そんなことを考えていて30分が経った。
もやもやと心配が消えない。
「!」
呼び出し音がなった瞬間
飛び起きてインターフォンに駆け寄る。
「南くん?」
『うん、着いたよ』
「あっ、えっと
目の前のエレベーターで
4階まで上がって、
右に曲がったらすぐだから...」
『了解』
何だかそわそわする。
落ち着かない。
ピンポーン
モニターなんて見ずに
すぐにドアをあけた。
「お待たせ。
遅くなってごめん。」
ほっとしたような
何とも言えないような感じがして
穏やかに笑った南くんに
思わずぎゅっと抱きつく。
「...ありがとう、来てくれて」
「ん。もう大丈夫だから」
ふぅっと力が抜ける感じがした。
...ん?
抱きついてる。
そう把握したと同時に
かぁっと体の体温が上がった。
「えっ!あっ!ご、ごめんね!」
慌てて離れる。
無意識でとはいえ、
なんて大胆なことを...!
「あはは、別によかったのにー」
そして今日は黒縁のメガネ…。
けらけら笑ってる
南くんをとりあえずリビングに通した。
「ね、ねぇ
鉢合わせしたりしなかった?」
「………いや、会った。」
「え?!
あ、会っちゃったの...?」
少し間があったけど、
気のせいかな…?
「……うん、それでこれ...」
南くんがポケットから
1枚紙を取り出した。
「なに?」
「渡しといてくれって…
ちなみに中身は知ってるから。
向こうが見せてくれた」
恐る恐る開いて、読んでみる。
そこには懐かしい字で
こう書いてあった。
『愛 へ
久しぶり。
連絡手段がないから手紙にします。
怖がらないで読んで。
中学の時は本当にごめん。
俺どうかしてたと思う。
自分勝手で愛の気持ち
考えてなかった。
別れた時もそう。
愛は俺を気遣って
言葉を一言一言選んでくれたのに。
卒業してから正気に戻って
ずっと謝りたかった。
こんな一言で本当にごめん。
今度付き合う人とは
幸せになってください。
それじゃあ、元気で。
千晶より』
「……」
予想外の内容で言葉が出ない。
「それポストに入れようと
思ってたらしいけど
部屋番がわからなくて
困ってたっぽい。」
「そう、なの」
「まぁでもうろうろしてたら
そりゃあビックリするよなぁ。」
「…」
黙り込んだ私を見て
しばらく考え事をしてから
南くんが口を開いた。
「素直な人だった。
本心だと思うよ。
俺に真っ先に見せてくれたしね。
あと、相談にのってもらって
背中を押してくれた子が
気になってるらしくて
部活も頑張ってるみたいだよ。
彼もちゃんと進めてる。」
「そっか...
よかった...」
ただ、安心した。
千晶がちゃんと前のように
進めてるということが
1番ほっとしたかもしれない。
あんな事があったけれど、
私の幼馴染みだから...。
「あっ、返事、どうしよう...」
私も謝らないといけない事がある...
最後まで自分の
本当の気持ちに気づかなかった。
「あぁ、いらないってさ。
日比野さんなら返事は?って
いいかねないって言ってた。
それに、たくさん気を使わせて
謝らせたからって。」
「...そっか」
そう言われてしまえば、
頷くしかない。
「うん。
あ、後一応 大丈夫だと思うけど
買い物の時とか
1人で出掛ける時は
俺に一言いってくれると
ありがたいな。」
「...うん。わかった。
いろいろありがとうね。
だいぶ気持ちが楽になったよ。」
「俺も。
安心した。 」
私は手元の手紙を元のとおり折って
テーブルに置いて、
顔を上げると南くんが
ぼーっとその手紙を眺めていた。
「南くん?」
「...日比野さんはさ。」
「うん?」
「...俺でいいの?」
「...え?」
「あ、あぁ、ごめんなんでもないよ。
何言ってるんだろうな。
とりあえず何か
困ったことがあれば
遠慮せずに言って。」
さっきの言葉を
無かった事にするように
苦笑しながら彼がいった。
「困ったりすることといえば...」
そういえば、
1つだけ思い浮かぶことがあるなぁ。
「ん~...南くんといると、
すごくドキドキして
胸がきゅーってなりすぎることかな。」
「...」
あれ、反応がない...
ちょっと笑えるかなっていうつもりで
言ったのに...!
もしかしたら私重い...?
何か急に恥ずかしくなってきた。
「あっ、えっと、ごめんね
こんな気持ちになるの
南くんが初めて、で。
千晶の時はなかったから...」
「......」
「と、とにかく...!
南くんがいい...!
そうじゃなきゃ、だめ、です...」
南くんが撤回しようとした事も
ちゃんと聞こえてた。
まだ、付き合って少しなのに
こんなに好きでいいの?って
くらいになんだもん...
ってまた私恥ずかしいことを...!
でも言ったことは嘘じゃないし...
思わず近くにあった
クッションに顔を埋めた時。
向かいのソファーに
座っている南くんが
はぁっと頭を抱えた。
「えっ、だ、大丈夫?」
いきなり過ぎて、
思わず立ち上がって
クッションを持ったまま
近くまで移動する。
「...大丈夫じゃない。」
「あ...」
南くんが真っ赤だ...。
私なんていつもだけど
こんな南くん見たことない。
「...始めはそのつもりでいたのに
日比野さんに会った途端
迷ったんだ。その手紙渡すか...。
でも、2人のためになる
内容だったから渡したけどね。」
「迷った?」
「…優しくて性格も良かった。
身長も高くてさ、
おまけにサッカー部でしょ?
これを読んだ日比野さんの
気持ち持ってかれたらどうしよう
とか思って。」
そんなことを思ってくれてたの...?
見てた感じだと
何もわからなかった。
ぎゅ~っと
胸が苦しくなる。
「あはは...余裕ないよなぁ...」
「...どんなに優しくても性格よくても
サッカー部でも。
南くんには敵わないよ。」
そう微笑んでいうと、
ポンポンと南くんが
自分の隣部分を叩いた。
それに従って隣に座る。
と同時にふわっと体が包まれた。
「...よかった。」
ほっとしたしたかのように
ため息をつきながら
そう呟く。
「ふふっ、私もよかった。」
あぁ、すごくドキドキしてるなぁ。
バレちゃいそう。
いや、さっき言っちゃったか。
そんなことを考えていたとき、
耳元で小さく囁かれた。
「...好きだよ。」
低くて優しい声が耳に響いて、
体がビクッとする。
ーうわぁ、どうしよう...
どんどん体温が上がってる。
「~っ...」
おかしくなりそう。
それでも心地いい熱に
離れて欲しくない。
ー恋って矛盾だらけ...。
