隼人side
「大したことじゃないんだけど、
ちょっと聞いて欲しいことがあるの。
後でいい、かな?」
電車を乗り換える前に
遠慮気味な笑顔でそう言われたから、
着いた後にそのまま
いつもの公園に来た。
いや、言われなくても
そうするつもりだったけれど。
まだ日が落ちてる途中で
辺りはまだ明るい。
風が吹いたとともに
隣で日比野さんが
長い髪を耳にかける。
少し緊張している様な表情に
思わずじっと見てしまいそうになるけど、
今はそれどころじゃない。
「…よし」
そう小さく呟いた彼女は
俺をちらっと見ると
海に視線を移して
恐る恐る話始めた。
「…さっきの電車で見た高校生ね。
私の幼馴染みなんだ。
それで、中学の時の…」
「…」
「…彼氏で。
あ、千晶っていうんだけど…」
「…うん。」
ー彼氏…。
正直驚きもあるけど、
多分他にまだ話があると思うから、
ここは内にとどめておく。
「…付き合ってから少し変わってね、
重かったのと
私が…
恋愛的に見れてなかった、から、
別れ話したんだけどね。
その後、卒業まで
頻繁にメールとか帰りに…
えっと…、いろいろあったりして…。」
「いろいろ?」
「あ、大したことじゃないの!
まぁ、ちょっと待たれたりとかは
あったけど…」
ちょっと待った…
待ち伏せ?
それ大したことだし、
ちょっとじゃないし…
変に1人で歩かせると
危ないんじゃ...
俺が微妙な顔をしてたからか、
慌ててすぐに話を続けた。
「そ、それで!
今は浜谷高校に行ってて寮みたいで。
少し安心してたんだけど、
花火大会の次の日、
麻里達から 金曜日に
帰ってくる事聞いて…」
「ん?今日木曜じゃ…」
「そう、だからびっくりしたの。
まさか1日早く帰ってくるなんてね~。
実は麻里からも
心配だから
南くんに言っておきなよ
って言われてたんだ…」
そう言って
あはは、と少し笑った。
不安が入り交じったように。
どうして言わなかったのか
大体予想はつく。
普通に考えて
元彼の話はしにくいし
心配とか、迷惑がどうこうとかだろう。
そう考えた結果、
「…自分でどうにか
できると思ってた?」
「えっ…、
そ、それは…」
ほら、
当たり。
「何で?」
「…だって話が話だし
迷惑かけるかもって...。」
「あれ、もっと何でも頼ってって
ついこの間言いませんでしたっけ?」
下を向いたままの日比野さんを
ちょっと覗き込んでみる。
びっくりしたのか、
少し頬を赤くして小さく呟いた。
「…いいました...。」
…素直だなぁ。
思わず笑が出てしまう。
俺はベンチから立ち上がって
日比野さんの前にしゃがんだ。
「何も気にしなくていいよ。
迷惑とか ないから。
俺といるときくらいは
自分を優先させて。
もし、何かあったら
気が気じゃないし。
それに。」
「?」
「何も言ってくれないと
逆に心配する。
それと寂しいかな。」
「…南くん」
「言ってくれてありがと。」
「…こちらこそ、
聞いてくれてありがとう」
花が開いたように
ふんわりと笑う。
「…なぁ」
「なに?」
「ちょっとこっち」
手招きすると
頭の上に?を浮かべながら
少し前かがみなった。
ちょっとこっち
なんて言った割には
特別な理由なんてない。
ただ手が届かなかっただけ。
「もしかして何かついて...」
その言葉の途中で
軽く頬に手を添えて
そのまま距離を0にした。
触れた唇から
ほのかな熱が伝わってくる。
顔を離して、
にっと笑ってみると
既に真っ赤に染まった日比野さんが
恥ずかしそうに
両手を頬に当てていた。
「ちょ、ちょっと...
いきなりすぎるよ...!」
「あれ、いきなりいや?」
「え?!それは、あのっ...」
慌ててる彼女を
ジッと見つめる。
「え、っと...」
「えっと、何?」
「だっ だからね
い、いきなりでもいいけどっ...!
慣れてないからっ!」
その瞬間何か
こみあげてくるものがあった。
苦しいような
火照るような...
ー...また。
そう涙目で訴えてこられたら
動揺しないはずがない。
「...ずるいな。」
「えっ?」
「いや、何でもない。
すぐ慣れるよ、きっと。
何ならもう1回しとく?」
さらに赤くなった彼女が
少し戸惑いながら
無言で目をギュッと閉じた。
可愛いことするなぁ。
半分冗談のつもりだったのに。
まぁ、好都合だけど。
日比野さんの事になると
余裕がなくなるのは
何となく気付いていた。
もう一度頬に手を添えて、
また口づける。
少し長めのキスのあとで
ぼーっと惚けてる彼女に言った。
「...安心して。
守るから」
