愛side
ん~、眠い。
昨日はあまり眠れなかった。
いろいろな事がありすぎて
心が落ち着いていないのかもしれない。
登校中の今もそう。
何だか南くんに会うのが緊張する。
電話だったけど
すごく優しい声だったな…
「愛!愛~?
おーい!聞こえてる~?」
「え?!」
気づけば、
横を麻里が歩いていた。
「あ!お、おはよう、麻里。」
びっくりした~。
「おはよう~!
ところでどーしたの?
ぼーっとしちゃって。
顔も何か赤いよ?」
「な、なにもないよ!
ちょっと暑くて!」
私、顔赤かったのかなんて思いながら
パタパタ手で仰いでみる。
「ふぅ~ん、まぁいいけど!
それより聞いて!
今週末 悠ちゃん帰ってくるの!!」
「あ!そうなんだ!
良かったね~!」
ふふ~と
麻里が嬉しそうに鼻歌を歌い始めた。
悠ちゃん こと 佐伯 悠介 くんは、
麻里の彼氏さん。
中学1年からだから、
今年で付き合いはじめて3年目かな?
サッカーで実力があった佐伯くんは
県外の強豪校に推薦で入学したので
今はいわゆる遠距離恋愛中。
休日も部活だらけで忙しいらしくて、
やっと今週末帰ってこれるみたいだった。
「そう!それでね!
出かけようってなったんだけど
どこかいい場所ない?」
「いい場所か~…。
あ、2ヶ月くらい前にできた
アウトレットは?」
「あ~、あそこ開店したてで
行っちゃったんだよね~。」
「なるほど~。
じゃあ、港の方の水族館は?
リニューアルしたみたいだよ?
かなり混んでるみたいだけど。」
私が苦笑しながら答えると、
麻里も同じく苦笑する。
「混んでちゃ難しいね~。」
全くそのとおりだった。
港の水族館は全国的に有名で
あちこちから人が来る。
いつも人が多いのに、
かなり混んでるとなると
中に入れるかわからないレベル。
「やっぱアウトレットが無難かなぁ
悠ちゃんも買い物好きだし。」
気づけばもう教室の前まで来ていた。
それなのに、そこで2人で立ち止まり
うーんと頭をひねる。
「それかもう大人しく
家にいるかだよね?」
「それでもいいんじゃない?
話したり、DVDみたり
ゆっくりできるよ。」
私がそう言うと、
麻里が、よしと手を叩く。
「うん、それでいこうかな!
いっぱい話しちゃうんだからね!
ありがとう、愛~!」
「いいえ~!
楽しんでね!」
「っていっても後4日もあるよ~」
そんな話で、盛り上がっていると
すぐ後ろから声がした。
「おはよう、なんか楽しそうだね。」
いきなりの事で心臓が飛び跳ねる。
私には見なくても誰だかわかった。
「あ、おはよう!南くん!」
麻里が元気良く答える。
無意識に髪を整えながら
ゆっくり振り向いてみた。
相変わらず爽やか...。
それになんだか照れくさい。
緊張する~...。
「おはよう。
って、どうかしたの?」
そのまま固まったまま私を彼が覗き込む。
目が合った瞬間には
もう遅かった。
「日比野さん、おはよう。」
にっと微笑んでそう言われた途端、
顔がどんどん熱くなる。
ど、どうしよう!
「お、おはよう、南くん…。」
よかった、何とかいえた。
でも彼はそんな私をみて、
はははっと笑い
もうすぐ始まるよーと言いながら
教室の中に入っていった。
あぁ、恥ずかしい…。
彼を最後まで
目で追ってしまった後に、
ふぅとため息をついて視線を戻すと、
麻里がニヤニヤと私を見ている。
しまったと思った。
「へぇ~。
ついに愛にも春が来たかぁ。
さすが王子。」
「ま!麻里!」
ふふふ~と笑いながら
麻里も教室に入っていく。
はぁ、疲れた。
まだ始業前なのに。
でも…。
目をやると、南くんが
椅子に腰掛けたところだった。
当たり前だけど、
席にいてくれる事が
嬉しく感じる。
ー今日もいい1日になりますように。
心でそういいながら、
私は足を進めた。
彼のいる手前の席まで。