「春ねぇ」

溝口先生は透夜がいるせいで開けられない窓越しに、春の霞に包まれた校庭を見ていた。
一般的な小学校の校庭と違ってサッカーゴールがあるだけの高校の校庭。
あまりに殺風景で、でもむしろのどかに思えるのは春という季節のせいだろうか。

「先生ーティッシュないティッシュ」
「………あのねえ坂井くん、君ねぇ、ここは学校の保健室であってホテルとかじゃないのよ」
「わかってまーす」
「じゃあそんなにくつろがないの!追い出すわよ!」

ええ!と透夜は顔をあげた。
同時に『チャララララ~…』と悲しい音がした。彼は手の中のゲーム機の画面を見て、ああやられた、と呟いた。

「だって、教室埃っぽいんだよ。あん中いたら俺死んじゃう」
「だったらゲームやめておとなしく寝てなさいよ!」

透夜は気にくわなさそうに顔をしかめたあと、だから春は嫌なんだ、と小さくはっきりと言った。