2階まで階段をゆっくり登っていたら、5時間目終業のチャイムが鳴った。2階は3年生の教室ばかりで、その3年生は卒業式まで自由登校ということで、誰も来ていなかった。

その代わり、3、4階の騒がしい声がリアルに響く。

マスクをしたまま人と関わるのを嫌がって、あわてて階段を登り切り、角を曲がって部屋に駆け込んだ。


「あ、坂井くん~」
「……はあ!?」

窓を開け放して春の光を浴びた春が、楽しそうに微笑んだ。


「またサボるの?授業。よくないよ、サボりぐせ」

よいしょ、と彼女はソファから上半身を起こす。
柔らかな色の髪が、春風になびいて───

「窓閉めろ!」

いつもと違って荒々しい口調になったのは、花粉が絡んだせいだろう。