「あっ坂井くん!久しぶり!」

春はすぐに人懐っこい笑顔とともにおかしなことを言った。透夜は花粉症のことを一瞬忘れて、ぽかんと春の顔を見つめ、コイツなにいってんだよと思う。

「ひさ…しぶり……?」
「だって朝からずっと姿見なかったもんねっ!あ、ちがうや昼休み見たんだった!」

(「昼休み………?見た……?」)

彼は首をひねった。自分はそのとき美術準備室で寝てたはずだ、おかしい、そう思った。

「第2美術準備室て、居心地いいの?」
「!?」

春は言うだけ言って、うぎゃ!と叫んだ。
今度はなんなんだ、透夜は怯えるような目で彼女を見た。クシャミはまだ出ない。

「タオル!体育!」

ガシャンガシャン音をたてて、出しっぱなしになっていた椅子をかき分け、自分の席に行く春。すぐに手にタオルをもって、教室を飛び出していった。

「…………なにあの人」

ふいに空腹を思い出して、カバンを手に教室を出ようと立ち上がった。
そこに、また足音。
だんだん近づいてくる。

透夜が警戒して身を固くしたら、足音が教室の前で止まって、ほんの一瞬だけ静かになった。

「………え?」

彼は少なからず困惑し、入り口のドアに目をこらした。
すると、

「またね!坂井くん!」

春が顔だけ見せて、即行で出ていった。