ホント、随分なついてくれたなぁ。


うん、良かった良かった。



葵の過去に何があったのかなんて、具体的に知る必要はないと思う。
辛い目にあってた、それは明らかだから。


そして俺は願うんだ。


これ以上―――

これ以上、誰にも葵が傷つけられませんように、と。
これ以上、葵に辛い時間ができませんように、と。






「結構イロイロ買ったな」
「買いすぎって気もするけどな」

俺たち2人は、卵やらペットボトルやら、重たいものを持つ。
葵には、3個のグレープフルーツ。
今にもスキップを始めそうな足取りで、大通りを進んでいく。

「こーやって見てりゃー、普通の女の子なのになー」

不意に、サトが言った。

「………ん…だよな」
「言葉を知らないって…どうしてそこまでなるんだ?」

サトはいつも、第三者にわかりにくい物言いをする。
だけど、俺にはコイツの気持ちが12分に伝わってきた。

「自分の子供なのに…」
「わかんねぇよ、バカ親の考えることなんて」



サトの気持ちは、12分に伝わってきた。それは間違いないけれど…

サトは、サトには、ちゃんとした両親がいて、それはとてもいいことだと思う。
だけど、だから、葵の受けた心の傷を完全に理解することは、生涯無理だと思う。

べつにサトの責任じゃない。

むしろ、知らない方がずっと良い。