葵は進歩が早くて簡単な日常のあいさつを使えるようになった。

俺が発した言葉も大体理解できるようになった。



だけど、そのまま吸収するわけで。


「学校に行ってきます」


俺はゆっくり丁寧にしゃべらなくちゃいけなくなった。




「朝ごはんとお昼ごはんは、テーブルの上にあるからね」


「うん」


葵の長い髪をクシでとかす。
サラサラと揺れた。


「電話来てもほっといていーから」

「うん」

「誰か来ても、ほっといていーから」

「うん」


毎日同じことの繰り返し。


「じゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい」


笑って手を振る少女に、俺も笑って手を振り返した。