ロビーに戻って、ソファーに葵が座ってるのを見つけた。俺は静かに近づいて、彼女の肩を軽くたたいた。

ビクッとして肩をすくめた少女を見て、俺はどうしたらいいのか分からなくなった。



「…葵」

「ん?ちとせ…くん?」

「うん、帰ろ」

「カエロ…?」




首をかしげる葵を見ていたら、不覚にも涙がでそうになった。







さっちゃんは職業柄なのか、ほとんど平然としたままに言った。

(「たぶん、生まれつきだよ。虐待。」)

(「生まれつき…?」)

(「存在を認めてもらえなかったんじゃないかな」)



存在を認めてもらえない?
なんで?



(「子供…生まれたばっかりは、親しか関わる人間がいないの。話しかけてもらえなかったら?言葉を覚えられないでしょ?」)

(「んなばかな…」)

(「叩かれたり、狭いところに閉じ込められたり…だから、エレベーターが怖いのよ」)

(「………っ」)