結局、車イスとかの人用の改札を、葵の手を引いて通った。
2枚の切符を駅員のおじさんに見せると、おじさんは「暑いのにまったくベタベタして」、というあからさまな顔を見せてくれた。



……正直な人は、いいと思います、見かけばっかり取り繕うよりも。
おじさん、どうかこれから先もそのままでいてください。






「足元、気をつけて」
「アシモト?」
「………ん」

いちいちおうむ返し。

両手をつかんで、転ばないように電車に乗せた。
社内は割りと混んでいて、空席をようやく一つ見つけた。

葵、と呼んで、座らせた。




つり革に掴まろうとした右手を彼女が放さなかったので、左手で掴む。

葵の隣に座っていたさっちゃんくらいの年の女の人が、仲良いねって、俺たちに笑いかけた。

反対隣の強面なお兄さんもも、微笑んでるように見えた。
それでも、あんまり見てたら「ガン」つけてるようになるかと思って、視線を葵に戻す。





ああ、こんなの傍から見たらただのバカップルだよ。
人前でいちゃいちゃいちゃいちゃ…

この時期一番公害な連中。

まさか自分がそんな加害者になるなんて。




しかも彼女でも何でもない女の子と。