まあつまり、嘘も方便ってやつ。
先人は、正しい。


『じゃあ、あしたはちゃあんと来てよね?』
「ん、サトに後でメールする言っといて」
『りょおかい!!またね』


電話は勢いよく切れた。

「はー」と深く息を吐きながら時計を見上げると、なんと恐ろしいことに、12時が半分終わるところ。
さっちゃんの仕事先には、ここから電車で一時間以上かかる。

遅刻しようものなら、容赦なくアウトだ。


「やっべぇ!」


俺はあわてて財布とケータイをポケットに突っ込み、振り返って少女に呼びかけた。


「行くぞ、葵」
「え?」

未だに単語と「私は日向葵です」しかしゃべらない少女の手をつかんで、部屋を出た。