「嘘じゃねえって…」

『じゃあ今日行っていいでしょー?』

「絶対無理。午後から約束がある」




これは事実だ。
さっちゃんのところに、葵を連れてでなきゃいけない。
なのに、美佐はそれまで嘘だ嘘だと繰り返す。


『なんで彼女がだめで他の子はいいの!?』


はあ…やれやれ。
俺は親切にも、

「面倒は巻き起こしたくないから」

という本音は言わなかった。
代わりに、

「俺んち、狭いし古いし…立地も悪いし。美佐来るとき、危ないっしょ?」


と、ひどく残念そうな声を出して説明した。

ああ、なんて模範的ないい彼氏。
美佐も『だったらぁ~いーけど』と、収まった。

俺も単純だけど、美佐も単純。俺以上に単純。


俺が美佐なら、駅まで迎えに来てよ!って粘るところだぜ…
よかった、こんな誤魔化しが通じる相手で。





いや、考えてみれば別に誤魔化す必要も隠す必要もないんじゃないかって感じなんだけどさ、本能的に。