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カチャ、とかすかな音を立てながら、葵の母親は俺に紅茶を差し出した。
ピンクと黄色の小花柄がきれいな、透けるように薄い、白のティーカップを手にとる。
広いリビングの中は、俺みたいな馬鹿でも高級そうだとわかる、立派な家具やラグで豪華に飾られていた。落ち着かない気分になりながら、B5サイズのノートを側に置いたその人に、渡されたもう一冊のノートに走り書きして問いかける。
[あんたは葵、いや、その写真の女の子を知ってるんだよな?]
女の人は自分の紅茶をゆっくりと一口飲んでから、ノートにきれいな字で書いた。
[真央は、元気にしていますか]
真央、というのが葵の本名だと認識するまで、少しだけ時間がかかった。
反応のない俺に、女は続けてこう書く。
[そうです、真央は、私の子供です。そしてあなたは、たぶんちとせくんでしょう]
突然現れた俺の名前に目を見開き、俺はノートから目を女に移す。
「どうして?」
言いながら書く。
どうして俺の名を知っているんだ、と。
[私は横山小春、といいます。旧姓は富永、あなたのお母さんの妹なの]
俺にその事実を告げる女は、少しだけ勝ち誇っているように見えた。

