見えてきた家は、まだ高い空にある太陽の光を浴びて、ただ平和に見えた。
どこにでもあるような姿の一戸建て、庭には小奇麗に手入れされた花壇があった。
そしてその花壇に水をやっている女の人の姿を見たとき、俺は凍ったように動きを止めた。
あまりに似ていたんだ、葵に。
そして、深いどこかに染みついて離れなかった、俺の母親にも。
落ち着いて考えれば俺の母親が今こんなに若いはずはないのだけれど、それでもその容姿は、長い髪の揺れる様子、着ている服の色さえも、写真で見せられた母親に似ていた。
ばあちゃんが死んでじいちゃんが死んだあと、俺はそれらの写真を全部焼いてしまったから、今はもうどこにもない。
幼稚園に通っていた時、何度も何度も涙を流しながら見つめた、写真の中の母親。
小学生だった頃、何度も何度も恨みながら見つめた、写真の中の母親。
中学生の頃、見る気も起きなかった、写真の中の母親。
そして、燃やして清算したはずの、写真の中の母親。

