ハコイリムスメ。


礼次郎さんが葵に油絵の具の扱い方についての簡単な説明をしている間、俺は礼次郎さんの絵をもっとよく見ようとして、壁によって見上げた。

一番きれいだと思ったのは、ひまわり畑の絵で、眩しいくらいに明るい青と黄色が俺の目を刺激した。

額縁の下には、毛筆で日付と「佐々倉にて」という簡潔な言葉が添えられていた。




「佐々倉……」

佐々倉という土地には聞き覚えがあった。
確か、じいちゃんかばあちゃんの生まれ故郷。


あそこにこんなに立派なひまわり畑があったのかと俺は記憶を探るけれど、あいにくそんなに昔のことをいつまでも頭にとどめておけるほど、俺の脳は賢くなかった。




ひまわり畑から目を離して葵の方を振り返ると、彼女はキャンバスに真正面から向き合っているところだった。
彼女のななめ後ろには礼次郎さんが立っていて、2人は窓からの黄色い白い光を全身に浴びていた。
キャンバスの白が光に反射してやたらに目にしみる。



やがて、葵が筆をとったのを見届けると、礼次郎さんは葵からそっと離れて、俺のところにやってきた。


「谷神くん、一度出ていようか」
「…そうですね」


俺たちは集中した葵の邪魔にならないように、そうっと静かにその部屋を後にした。