「えっ!」
葵は大きなキャンバスと礼次郎さんと俺の顔を順番に見て、もう一度キャンバスを見た。
たぶん彼女の頭の中では、あのキャンバスに好きなように絵を描く自分の姿が映っているんだろう。
あの表情からして、描きたい衝動に駆られているのは容易に想像できた。
「油絵の具で描いてみるといい。簡単に説明をしてあげよう」
「で、でも…」
葵は遠慮がちに俺のことを見た。
俺は笑って、
「せっかく礼次郎さんが言ってくれてんだから、やらせてもらえばいいよ」
と言ってやった。
葵は俺の言葉を聞いて、キャンバスに視線を戻し、小さく息を吐いた。
それから、「じゃあ、お願いします。描いてみたいです」と礼次郎さんに向きなおって行った。
たぶんきっと、絵を描くということは葵の天分なんだろう。
それに気づいている俺は、俺たちは、彼女がそれを思いのままに発揮できるように支えてやらなくちゃいけない。
やらなくちゃいけない、じゃないな、そんな偉そうな言葉じゃなくて。
支えになりたい、ただそれだけ。

