まさか、自分の名前を知らない?


俺はひまわりを見つめる少女をぼんやりと眺めた。そして、そう思った自分がバカのように感じて、はあ、とため息をついた。


いやいやいや…
それは、ねぇって。

もしもそんなことあるとしたら、知能レベル幼稚園児以下。

いきなりぶんぶん頭を振った俺から、少女は少し身を引いた。


「俺には、谷神ちとせって名前がある。お前も親がつけた名前があるだろ?」


彼女は無表情のまま、しばらく俺を見つめた。

正直どぎまぎしながら、口を開くのを待つ。




「ヤガミチトセ?」

「そう、ちとせくん」

自分を人差し指で指して、復唱する。

なんだかマジで小さい子に教えている気分になる。


「ちとせくん」
「うん?」
「ちとせくん」
「はいはい」

こんなことを2、3度繰り返すと、覚えたようで、嬉しそうに笑う。


「で?お前の名前は?」

俺は最初に話を戻す。