前の晩、俺は葵と話をして、最終的に、礼次郎さんのアトリエに行ってみようか、ということになった。
その旨を礼次郎さんに電話で伝えると、それならぜひ明日来るといい、ちょうど自分もいるからと言ってくれた。
明日午後2時ごろに礼次郎さんのアトリエに行くことを約束しすると、礼次郎さんは気を利かせてくれたのか、FAXで駅から家までの地図を送ってくれた。
「大きいねえ」
「ほんと、びっくりだ」
俺はぽかーんとマヌケに口をあけたまましばらく「アトリエ」を見つめた後、インターホンを押した。
しばらく待つと、玄関から礼次郎さんの姿が現れた。
「やあ谷神君、時間ピッタリだ」
「こんにちは、ちょっと迷ってしまって。遅れないか心配でしたよ」
「こんにちは」
俺がかぶっていたキャップを脱ぎながら頭を下げると、葵も俺にならって麦わら帽子を脱いで頭を下げた。
「本当に君は、私が今まで見て来た若者とはずいぶん違うタイプだね」
礼次郎さんは笑いを含んだ声でそう言ったあと、
「さあどうぞ、ようこそ我がアトリエへ」
と、いたずらっぽく微笑んだ。