「えーっと、たぶんここら辺でいいはずなんだけど」


俺はFAXで送ってもらった手書きの地図を頼りに、はじめて来た緑ヶ丘の街を歩いていた。
電柱に「緑ヶ丘3丁目」と表示されているところからして、礼次郎さんのアトリエ兼別宅はこのあたりにあるはずだ。


「あれー?さっきセブンイレブンあったよなあ?セブンイレブンを左折……セブンイレブンから100メートル直進、その右手…」
「それなら……ちとせくん、ここじゃないの?」

葵が指をさすのは、どう考えてもアトリエと呼ぶには大きすぎる立派な家だった。
というか、このあたり一帯、どの家も大きくてきれいで、ご立派。

「えー?」

俺は言われて近づいてみる。
門の先は6メートルほどのレンガの道。両脇には花壇があって、花が咲き乱れている。
そしてようやく玄関。

俺は表札がないかとちらりと門を一瞥し、そして「Nishikado」と彫られた大理石のプレートを見つけた。


「……マジ?」


俺は半歩下がって、もう一度大きすぎる「アトリエ」をぼうぜんと見つめた。