けれど礼次郎さんは、それならば、と俺の話を遮った。

「それならば、私はこれ以上訊かないことにしようと思う」

「…え?」


俺は驚いて顔をあげた。
礼次郎さんは俺を見て少し笑ったあと、「いいんだ」とはっきりと言った。


「いや、考えるほどにおかしな話でもあるが、私は単にあの子の絵が好きなんだ。あの子が何者なのかはそこには関係していないのだし、知れる程度のことでいい。あれが本名じゃなかったとしても、まあ別にかまわないのでね」

「…はあ」


若干首をかしげながらも、芸術家って変な人が多いものなのかと心の中で呟いてみた。





「それでだね、谷神くん?」

名前を呼ばれて、俺は顔をまた上げた。

「はい」
「私に、あの子を預けてくれないだろうか」
「………へ?」