「おお谷神君、呼び出してしまってすまないね」
「いえこちらこそ、おまたせしました」

俺はかなりの距離走ったせいで息を弾ませたままに、オープンテラスのイスに座った。家にはサトに来てもらって、葵の相手を頼んだ。

「君は、珍しいな」
「はい?」
「『こちらこそ』なんて言うように見えなかったんだ、…いや…人は外見によらないものだな」


けなすつもりも褒めるつもりもないんだろう。ただ率直に感想を述べただけ、そんな雰囲気がおかしくて俺は少し笑った。


「気を悪くしたのなら──」
「いやそんなことないっす。こんな感じのことはよく言われるんで」

実際、さっちゃんに言われたりサトのとこのおばちゃんやおじちゃん(つまりサトの両親なわけだけど)に言われたりした経験がある。

じいちゃんとばあちゃんに言葉遣いに関してはこれ以上ないほどに厳しくしつけられていたからだと思う。


「で、何ですか?」
「そうだったね、そう……この間、私が公園で君に言ったことを覚えているかな」





礼次郎さんは、本当に本気だった。

葵の絵についてこれ以上ないくらいの褒め言葉を並べ、それから葵のことを知りたがった。

俺は話すべきなのかどうしようか、と迷った。